2014/04/06

わもんな言葉71-一念無想

奥泉光さん『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』所収の「盗まれた手紙」の一節。
 猫介のことは忘れよう。桑幸は深く決意し、けれども、そう思えば思うほど脳髄の深い所に猫介は居座った。全身の細胞の一つ一つに「春狂亭猫介」が刻み込まれるような気さえした。DNAレベルで猫介は桑幸に取り憑くかのようであった。

意識的に「忘れる」ことは難しいものです。

覚えることは意識的にできても、忘れることは意識的になかなかできません。


「思い出す」という言葉があります。

何かの拍子に、今まで忘れていたことを思い出す。

ということは、そのとき思い出した事物はどこかしら記憶に残っていたということになります。

思い出すということは、無意識下にあった記憶が意識上に上ってきたと捉えることができます。

忘れるということは、意識上から無意識下に押し込めることとなります。

「押し込める」と書くと、これはもともと意識的に行う動作なので、無意識的に行なうことは難しい。

だから、意識的に忘れることは難しいものです。


「我を忘れる」という言葉があります。

何かに夢中になる、という意味です。

我を忘れるには、我ではない他の何かに夢中になることです。

我を忘れようと、我に固執すると、我に返ってしまいます。


忘我。離我。

話し手の話に一念無想。


桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活 (文春文庫)
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聞けば叶う〜わもん入門
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